MTE/MAKと免疫増強について

富山医科薬科大学名誉教授 理学博士 菅野延彦先生の講演を元に自身の勉強のためにまとめたものです。

マンネンタケの菌糸体を培養した培地のアルコール不溶性物質の調整 【水溶性物質の調整】

液体培養で得られる菌糸体ペレットを脱脂米糠とバガスからなる固形培地に接種・培養

発茸直前の固形培地を破砕

破砕物を熱風乾燥

乾燥物を10培養の熱水で10分間抽出

抽出液を滅菌濾過し凍結乾燥

乾燥標品(MTE/MAK・紅芝泉)
【アルコール不溶性物質の調整】
MTEを蒸留水に溶解(100mg/ml)

MTE水溶液に4倍容のエタノールを添加

沈殿(MTP) 収率、30%MTE

MTPを蒸留水に溶解

セファデックスG-200カラムでゲル濾過

高分子物質(MTP1) 収率 6%MTE
低分子物質(MTP2) 収率 18%MTE
マンネンタケの菌糸体を培養した培地のアルコール不溶性物質の多糖・蛋白質含量(%重量)
物質 MTE  MTP  MTP1  MTP2 
多糖 44.8 50.6 87.6 46.4
蛋白質 32.7 31.6 0.3 25.4
その他 22.5 17.8 12.1 28.2
*その他には水溶性リグニンを含む。
培地・菌糸体・MTE・MTP2の糖組成
グルコース ガラクトース マンノース アラビノース キシロース フコース ラムノース
6炭糖 5炭糖
培地 62% 17% 3% 13% 5%
菌糸体 52% 16% 12% 3% 14% 3% 0%
MTE 40% 8% 2% 15% 29% 5% 1%
MTP2 48% 5% 2% 14% 26% 4% 1%
*地球上の生物は人間を含めカビ・キノコに至るまで6炭糖をエネルギー源としている。
MTE/MAKは醗酵食品である 1・微生物によって有用な物質が作られる働きを醗酵と称するが、この働きを利用して作られる酒類、醤油、味噌、漬物など発酵食品が日常生活に満ち溢れていることは誰もが認識している。

2・MTE/MAKもマンネンタケ菌糸体(微生物)の働きを利用して作られる有用な物質ということで、醗酵食品のカテゴリーに属し、アガリクスなどのキノコ製品とは一線を画する。

3・何故ならば、この物質は、培地由来と考えられる水溶性リグニンや、五炭糖(アラビノース・キシロース)を主要成分とするヘテロ多糖を多く含むからである。
材料と実験

LEMの経験から抗がん免疫を高める物質が存在するだろうということから、いきなりその実験を始めた。
免疫に関与する細胞を調べてみることが必要。
1・使用した動物の器官
 近交系マウス(C57BL/6、♂)の脾臓
2・脾臓からの免疫担当細胞の分画・分取
 単球・マクロファージ(プラスチック吸着細胞、AD)
 T細胞(ナイロンウールカラム流出細胞、NE)
3・細胞処理試薬
 細胞培養 RPM1 1640/0.24 mM NaHCO3/10% FBS/0.05% Kanamycin
 脾細胞調整 Hanks’ balanced salt solution
 溶血 0.155 M NH4CL/10 mM KHCO3 (ph7.4)/10 mM EDAT
 細胞洗浄その他 phosphate bufferd saline (PBS)
4・MTP存在下での免疫担当細胞の活性化
 細胞の増殖
  放射性チミジン(methy1-3H)thymidine
 サイトカインの産生
  ELISA キット (1L-1、1L-2、1L-12、and IFN-γ)
5・MTP2とマウス脾細胞の細胞傷害活性
 L929細胞(マウス線維芽細胞腫)
 P815細胞(マウス肥満細胞腫)
 放射性物質([methy1-3H]thymidine、Na2[51Cr]04)
免疫担当細胞
種類 細胞 特徴
抗原提示細胞 単球・マクロファージ 末梢血では単球、組織へ移行してマクロファージ、貪食作用、サイトカイン(モノカイン)の産生
樹状細胞 末梢血や組織に存在、飲作用
リンパ球 B細胞 抗体産生、抗原提示、サイトカイン(IL-1、IL-2 etc.)の産生
T細胞
 CD4+細胞
 CD8+細胞
種々のサブセット、サイトカイン(リンホカイン)の産生
 ヘルパーT(Th)細胞、Th1、Th2細胞
 Tc細胞、CTL(cytotoxic T Lymphocyte)
NK細胞 ナチュラルキラー細胞、非特異的細胞傷害活性
顆粒球 好中球 貪食作用、病原体の破壊、炎症局所の清掃
好塩基球
肥満細胞
IgE受容体の存在、即時型アレルギーに関与
好酸球 寄生虫感染の防御、即時型アレルギーに関与
*免疫の基礎知識 中野昌康(螺良 英郎・矢田 純一監修)診療新社(1966年)より 一部加筆編集とのこと。
サイトカインの産生
サイトカイン T細胞 単球・マクロファージ IFN interferon
TNF tumor necrosis factor
IL interleukin
GM-CSF granulocyte-macrophge-colony-stimulating factor
TGF transforming growth factor
Th, helper T cell


注1 IL-1は局所免疫、全身性炎症などにおいては多様な細胞から産生される。

注2 
++ 大いに産生
+  産生
-  産生せず
Th1 Th2 Tc
IFN-γ ++ - ++ -
TNF-β ++ - +/- -
IL-2 ++ - +/- -
IL-4 - ++ - -
IL-5 - ++ - -
IL-6 - ++ - +
GM-CSF ++ + ++ +
IL-1 - - - ++
IFN-β - - - +
TNF-α - - - +
TGF-β - - - +
*免疫の基礎知識 小倉剛(螺良 英郎・矢田 純一監修)診療新社(1966年)より 一部加筆編集とのこと。
細胞性免疫の仕組み
MTP2はマウス脾マクロファージを増殖活性化する。
MTP2はマウス脾細胞のサイトカイン産生を増強する。
MTP2はマウス脾細胞の傷害活性を増強する。
抗癌免疫の仕組み
マウスNK細胞の抗原認識と機能
小腸粘膜上皮の構造
M細胞における抗原のトランスサイト−シス
T型アレルギーとMTP2
CD4+T細胞の分化と機能選択
まとめ(要旨) 1・MTE(MAK・紅芝泉)は微生物(マンネンタケの菌糸体)の働きによって作られる物質、つまり発酵食品である。

2・MTEに含まれるMTP2(多糖・蛋白質)はマクロファージの増殖・活性化を促す。

3・MTP2によって活性化されたマクロファージは、Th1細胞(CD4+細胞)からのIL-2とIFN-γの産生を増強し、NK細胞や細胞傷害性T細胞をLAK細胞へと分化・誘導する。

4・IFN-γは、マクロファージを活性化して、NO(一酸化窒素)の産生を増強する。因みに、NOは抗癌因子として、又血管平滑筋の弛緩・拡張因子として作用する。

5・抗原は、粘膜上皮に存在する特殊な構造(M細胞)によって、粘膜固有層(体内)に取り込まれる。

6・MTP2など、MTEに含まれる消化不可能な高分子物質は抗原として認識され、小腸粘膜上皮に存在するパイエル板のM細胞によって、体内に取り込まれる。

7・MTP2は、IFN-γの産生を増殖することによって、Th2細胞(CD4+T細胞)の増殖を抑制し、1型アレルギー(アトピー)性症状の改善に関与することが期待される。
付1 感染によるCD4+T細胞の分化
TgEを介したアレルギー反応
症候群 通常の抗原 浸入経路 反応
全身性
アナフィラキシー
薬物 血清 毒 ピーナッツ 静脈内(直接あるいは急速な吸収) 浮腫 血管透過性の亢進 気道閉塞 循環不全 死
じんま疹 虫刺 アレルギーテスト 皮下 局所の血流増加と血管透過性の亢進
アレルギー性鼻炎(枯草熱) 花粉(ブタクサ オオアワガエリ カバ)ハウスダスト 吸入 鼻粘膜浮腫、不快感
気管支喘息 ネコ上皮 花粉 ハウスダスト 吸入 気管支収縮
気道分泌の亢進
気道の炎症
食物アレルギー ナッツ類 エビ カニ ミルク タマゴ 魚類 穀物 経口 嘔吐 下痢 痛痒 蕁麻疹(じんましん) アナフィラキシー(まれ)

免疫生物学 原著第5版 笹月健彦監修訳 南江堂(2003年)より

2008.03.27更新